(一社)海と日本プロジェクトinえひめは、2024年7月26日(金)から28日(日)の3日間に渡り、愛媛県の小学生を対象に身近な海である瀬戸内海と宇和海をフィールドにホンダワラ類などの海藻や海草のアマモを調査し、藻場の役割と私たちとの繋がりを学ぶ海洋体験学習イベント、「えひめブルーカーボンスクール2024~瀬戸内海・宇和海の「海の森」大調査~」を開催いたしました。
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
イベント概要
・開催概要:私たちにとって身近な海である瀬戸内海や宇和海で生育している海藻、また海草にスポットを当て、宇和海でのシュノーケリング体験や瀬戸内海での里海の生き物調査など、複数の体験プログラムを通して藻場の役割と私たちの生活との繋がりを学びます。
・日程:2024年7月26日(金)・27日(土)・28日(日)
・開催場所:26日 愛媛県南宇和郡愛南町
27日 岡山県備前市日生町
28日 愛媛県今治市
・参加人数:小学5・6年生 19名
・後援:愛媛県、愛媛県教育委員会、愛南町、愛南町教育委員会、今治市
・協力:愛媛大学南予水産研究センター、愛南町水産課海業推進室、渚の交番 ひなせうみラボ、NPO法人今治シビックプライドセンター、合同会社シーベジタブル
【1日目】まずは県内最南端のまち・愛南町で宇和海を全身で感じる!
イベント初日、参加者を乗せたバスがまず向かったのは愛媛県最南端のまち、愛南町。この日の学習拠点となる愛媛大学南予水産研究センター船越ステーションからは、目の前に広がる宇和海を臨むことが出来ます。3日間の学習プログラムの開始前に取り組むのは、「藻場」を中心として思いつくキーワードを繋いでいく「マインドマップ」作りです。まだプログラムが始まる前であるにも関わらず、「二酸化炭素の削減」や「魚を育てる」といったキーワードを書く参加者がいて驚きましたが、3日間の学習を通して参加者一人ひとりの考えがどう変わっていくのかスタッフもワクワクしながら見守ります。まず最初に学習するのは、愛媛県内の海の多様性についてです。講師を務めるのは、愛媛大学南予水産研究センター副センター長の高木基裕先生。愛媛県内の海は島しょ部やリアス海岸が要因で海岸線延長が長く多様な沿岸環境があることや、瀬戸内海と宇和海の特徴(成り立ち、地形、水温、海流の影響、生物の多様性など)について学びました。また、普段から海藻の分布をモニタリング調査している高木先生が前もって刈り取っていたホンダワラ類を観察し、海藻にはワレカラやヨコエビ、小魚など小さな生物が付着しそれらの生育の場となっていることを学びました。
続いては、愛南町水産課海業推進室の浜辺隆博さん、清水陽介さんから愛南町が地域一体となって推進している「海業」や「ブルーカーボン」の取り組みについて学びます。宇和海の課題として、海水温の上昇と、それに伴う生態系の変化などで海藻が育ちにくくなっていることを挙げ、その中でも試行錯誤しながらブルーカーボン生態系の保全活動の一環で四国で初めて「Jブルークレジット」の認証を得たことなどを紹介しました。地元の海の変化にいち早く気づけるようになることが重要で、そのためには地元の海や生き物に興味、関心を持ち続けることが大切だと学びました。
午後からは西海観光船(合同会社 Sea West)のダイビングインストラクター高橋翔さんを講師に迎え、シュノーケルを通して宇和海の生態系を調査するプログラムを予定していましたが、台風3号の影響でややうねりがあり急遽代替プログラムへと変更しました。桟橋に集まった参加者が手にしているのは釣り竿!海に入れないなら釣り上げて調査しよう!ということで1時間一本勝負の釣り調査がスタート。釣りが初めての参加者もいましたが、午後のシュノーケルを手伝ってくれる予定だった愛媛大学南予水産研究センター配属の学生さんたちがサポート役に加わり、手際よく竿を扱いながら多種多様な魚種を釣り上げていきます。施設に戻った参加者たちが行ったのは、釣り上げた魚の種類を特定する「同定」という作業です。魚の特徴をよく観察し、図鑑に載っている特徴と照らし合わせながら1匹ずつ種類を特定していきます。たった1時間の釣り調査でしたが、釣り上げた魚の種類はなんと10種類!アカササノハベラ、オトメベラなど温暖な環境を好む魚種に加えて、カワハギ、マアジ、マダイなど瀬戸内海でも見られる魚種も見られました。高木先生によると、釣り調査を行った桟橋周辺は藻場と岩礁、砂浜の3つの環境が混ざり合っているとのこと。沿岸域の海の多様性が魚種組成に影響を与えていることを改めて感じました。
【2日目】翌日は瀬戸内海まで大移動!”アマモの聖地”日生で保全活動を学ぶ!
前日に宇和海をフィールドに学習した参加者がこの日向かうのは瀬戸内海。松山市からバスに乗り、3時間以上の大移動を経てたどり着いたのは”アマモの聖地”である岡山県備前市日生(ひなせ)町です。日生町では、地元の漁協や環境保全団体が一体となり、約40年に渡りアマモの保全活動を続けています。この日の学習拠点である渚の交番 ひなせうみラボに到着した一行は、早速この日最初の学習プログラムであるアマモ場調査に出かけます。日生漁協の組合員さんが操船する船に乗り込み、参加者が向かうのは沖合に位置する大多府島の沿岸に生育するアマモ場です。夏場の高水温が影響し、この時期まで残っているアマモ場は少ないそうですが船の上から実際に生えているアマモを見つけ、長さや太さ、付着している生物を観察しました。移動の道中では、日生漁協が取り組む牡蠣養殖のいかだにも立ち寄り、アマモ場は水質の安定をもたらすことで牡蠣養殖を支えていることを学びました。
施設に戻った参加者は、実際に目にしたアマモ場の様子を振り返りながら、海草であるアマモの特徴と日生町で約40年続けている保全活動について学びます。講師を務めるのは、NPO法人 里海づくり研究会議で理事・事務局長を務める田中丈裕さんです。田中さんからは、初日に学んだホンダワラ類などの海藻と、アマモに代表される海草との違いをまず説明したうえで、アマモがもたらす多様な恩恵について学びました。愛南町で学んだ「海のゆりかご」や「ブルーカーボン生態系」としての役割のほかにも、アマモ場が自然の消波堤になること、また海の中に影を作って水温の上昇を防ぐこと、アマモは根から栄養を吸い上げることから結果的に海中の栄養塩をコントロールする機能があることなどを学びました。
午後からは、あらかじめ海の中に沈めていた牡蠣殻が入ったかごを引き上げ、牡蠣殻に付着したり、殻の隙間で生息している里海の生物を調査します。割り箸を持って生物を探す参加者の様子は真剣そのもの。エビ、カニの仲間やゴカイ、クモヒトデ、ギンポ類、カサゴ・メバル属の稚魚など、里海の食物連鎖の基礎となる多種多様な生物を観察し、改めて里海の生態系を保全することの重要性を学びました。日生での学びを終えた参加者は再びバスに乗り込み、本日の宿泊施設のある愛媛県今治市へ。就寝前には、2日間の振り返り学習を行い藻場を保全するために自分たちにどんなことができるか発表を行いました。参加者からは、「まず興味を持って海藻やアマモについて学習すること」、「再生活動に参加することで、地域の海を大切にする気持ちを周りの人に広めていくことが大切」、「海藻は高水温に弱いことが分かったので地球温暖化を極力抑える生活を考える」などの意見が出ました。
【3日目】いよいよ最終日!陸上での海藻栽培と、アマモの種取りを体験!
最終日となる3日目の学習は、海藻であるスジアオノリの陸上栽培の様子の見学からスタート。講師を務めるのは、合同会社シーベジタブル今治拠点マネージャーの森田曜光さんです。シーベジタブルは、海藻食文化の継承と新たな可能性を模索しながら先進的な取り組みを行っています。ここ、今治の拠点では地下からくみ上げた不純物の少ない海水を使ってスジアオノリの陸上栽培に取り組んでいるとのこと。参加者は、見慣れない円形の水槽で栽培されているスジアオノリの様子を観察したあと、乾燥させたスジアオノリをポテトチップスに振りかけて試食し、青のりの王様ともいわれるスジアオノリの味わいと香りを五感で感じました。日本沿岸でみられる海藻の種類数はおよそ1500種、このうち日常的に食べられているのは40種類未満であることを学び、海藻を新たに活用する可能性について考える機会になりました。
続いては、2022年度に「今治アマモプロジェクト」を立ち上げ、今治市周辺でアマモの保全活動に取り組むNPO法人今治シビックプライドセンター事務局長の三谷秀樹さんを講師に迎え、アマモの種取りを行いました。さかのぼること約2か月前、5月下旬に今治市内で採取したアマモの花枝をネットに入れ今治港内の海中で保存していました。参加者は、朽ちたアマモの葉と種をピンセットを使って選別していきます。アマモの種は参加者各自で持ち帰り、発芽に適した冬期まで冷蔵庫で保管することにしました。また、今回のイベントの参加者のうち希望者は今後の今治アマモプロジェクトの活動にも携わることが出来るとのことで、3日間の活動で学んだことを今後実践に移すことが期待されます。
【まとめ学習】3日間を通して学んだ藻場の役割と私たちとの繋がりとは?
最後の学習プログラムとして実施したのは、3日間のまとめ学習です。今回のイベントのゴールは、藻場の役割と私たちとの繋がりを明らかにすること。まずは、1日目の最初に行った藻場を中心とした「マインドマップ」作りを再度各自で行いました。イベントが始まる前と比較すると、書き込むキーワードや繋がりを示す線の量が大幅に増え、参加者一人ひとりの学習の成果が垣間見えました。
ここからは総合発表会に向けたグループワークに移行します。各班のグループリーダーのサポートも受けながら、3日間で学んだ藻場の役割と私たちとの繋がりを整理し、1枚の模造紙上で表現しました。参加者からは、「魚の集まる藻場を愛南町のダイビングの目玉に打ち出して保全しながら持続的な観光に生かす」、「すじあおのりを100%使ったのりしお味のポテトチップスを売ってその利益でまた藻場を守る」、「私にとって藻場とは、生き物を育む大切な場所なので更に増やして恩返したい存在」など、3日間の学びを存分に生かした素晴らしい発表がありました。今後は、愛媛県内の食堂や飲食店等と連携し、海藻メニューの提供と合わせて参加者が学んだ「藻場の役割と私たちとの繋がり」をリーフレット等にまとめ、本イベントでの学びを広く発信します。
参加した子ども・保護者からの声
【参加者の感想】
・アマモの役割を知り、海の保全のために大切なものであることを学んだ。場所や方法は違っても地元の海を一生懸命守ろうとしている人がいる。それは、決して人ごとではなく、これからの時代に生きる僕たちが受け継いでいかなくてはならない。海藻を守り続けるためには、どんな方法があるのか自分でも考えたい。
・私にとって藻場とは、人間の食べ物を育ててくれる大切な存在であり、地球温暖化を止めてくれるヒーローのようなもの。
・地元の海に藻場があるからこそ、小さな生物がすめて私たちが美味しい新鮮な魚を食べれられる。
・アマモが私達の生活を支えてくれていること。アマモがどんどん減っているけれど、私達の行動次第で増やすことも出来るということ。みんなにアマモを知ってほしいと思った。
【保護者の感想】
・小学生高学年でも理解できるような分かりやすい授業だったと子どもから聞きました。実際に海での体験があり、見たり触ったり色々なことができてとても楽しかったと、キラキラとした目で3日間の様子を話してくれました。
・随時Instagramに写真がアップされ、子どもたちの元気な様子をリアルタイムに知ることができ、とても安心いたしました。何より、「また参加したい!!」という娘の言葉が全てだと思います。
・座学と体験学習が織りまぜられ、学んだことを実際に見て触れて感じて、楽しみながら知識をしっかり身に付けられたように感じました。スタッフさんが優しく、一緒になって楽しんでくれて、知らない人ばかりの中でも、安心して取り組めたようでした。熱中症対策もしっかりして下さり、車酔いへの配慮など、気遣いをすごく感じました。
イベント名 | えひめブルーカーボンスクール2024 ~瀬戸内海・宇和海の「海の森」大調査~ |
参加人数 | 小学5・6年生 19名 |
日程 | 2024年7月26日(金)・27日(土)・28日(日) |
協賛 | 後援:愛媛県、愛媛県教育委員会、愛南町、愛南町教育委員会、今治市 |
協力 | 愛媛大学南予水産研究センター、愛南町水産課海業推進室、渚の交番 ひなせうみラボ、NPO法人今治シビックプライドセンター、合同会社シーベジタブル |