レポート
2022.11.04

大下島灯台を探訪

月に1度、今治明徳短期大学地域連携センター長・大成経凡さんに書いていただく海にまつわるコラム。

第5回目は、「大下島灯台を探訪」です。

 

11月1日の「灯台記念日」に合わせた取材で、今治市の大下島(おおげしま)を約10年ぶりに訪ねました。大下島は、今治港桟橋から関前諸島(岡村島・小大下島・大下島)行きの定期航路でアクセスができます。フェリーだと所要時間は1時間弱かかり、来島海峡大橋の橋桁をくぐるロケーションは、ちょっとした旅行気分にひたれます。途中、来島海峡航路の安全を守るウズ鼻灯台・中渡島灯台・桴磯灯標などの航路標識とともに、ご当地ならではの来島海峡海上交通センター・津島潮流信号所・来島大角鼻潮流信号所などの施設を海上から眺めることができます。

 大下港で下船すると、大下島灯台までは健脚だと徒歩で10分ほどの距離です。筆者は平成10(1998年)年頃、4か月間だけ関前村立関前中学校の社会科教員をしたことがあり、大下島では島内一周遠足の思い出などが走馬灯のようによみがえります。柑橘栽培が盛んで、山斜面には農道とモノラックが整備され、柑橘を出荷する農船(渡海船)もありました。あの頃は200名くらい島民がいたように思いましたが、平成17(2005)年の市町村合併をへて、現在は50名弱にまで減少しています。訊けば、最年少が島唯一のお寺の住職さんで46歳。それ以外はみんな70歳以上で、柑橘畑も少なくなり、イノシシの爪痕を灯台官舎(吏員退息所)跡地でも確認しました。

 それでも灯台を訪ねると、絶景がお出迎え。大下島灯台は、明治27(1894)年5月15日に初点灯した、今治市域では最古の洋式灯台です。

①地上~頂部の高さ約9.2m

<地上~頂部の高さ約9.2m>

 

②海面から灯火の高さ約35m

<海面から灯火の高さ約35m>

ここは、来島海峡を通峡せずに伊予灘から備後灘・燧灘(ひうちなど)へと抜ける布刈(めかり)瀬戸航路の西口にあたり、東口にあたるのが愛媛県越智郡上島町の百貫島(ひゃっかんしま)灯台となります。この航路上には、これら2つの灯台と同時点灯した灯台が広島県の島々に6つあり、布刈瀬戸8灯台や三原瀬戸8灯台とも呼ばれています。1つの航路に8つの灯台が同時点灯する例はきわめて珍しく、その背景は長く謎とされてきました(同時に初点灯した長太夫礁灯標も含めると、9つの航路標識となる)。

 この点については、星野宏和氏の調査(『燈光』第64巻第3号/2019年9月)によって、明治26(1893)年11月に日本郵船がインドのボンベイと神戸の間に開設した定期航路と深くかかっていることが分かってきました。つまりは、良質の綿花を綿織物業(紡績業)が盛んな阪神地域へ安全に海上輸送し、わが国の殖産興業発展に寄与するという産業界の要請があったようです。決して、時期が日清戦争の開戦と重なるからといって、軍の要請ではなかったのです。まだ当時、来島海峡の航路整備は時期尚早との判断で(明治30年代に整備)、布刈瀬戸の整備が急がれました。

③昭和24~25年頃の大下島灯台(星野宏和氏提供)

<昭和24~25年頃の大下島灯台(星野宏和氏提供)>

 では、大下島灯台の魅力とは何か。布刈瀬戸8灯台はすべて白色円形石造なのですが、大下島灯台だけがなぜか八角形なのです。明治期に造られたわが国の石造灯台で、八角形は大下島灯台のみで、大正期の若宮灯台と合わせても2例しかありません。明治期唯一の八角形石造灯台と称することができます。灯台レンズについては、平成29(2017)年3月で役目を終え、今治市教育委員会へ寄贈されました。現在は大下集会所の一室に収蔵されていて、今回の探訪で特別に鑑賞することがかないました。このレンズは、プリズムレンズを組み合わせたフレネル式で高さ51㎝あり、フランス・パリのメーカーが製造したものとする銘が刻まれていました。

④灯台レンズ(5等閃光レンズ)

<灯台レンズ(5等閃光レンズ)>

同じ部屋には俳優・森繁久彌直筆の書も掲げられていて、これは昭和41(1966)年公開の映画『仰げば尊し』のロケで来島した際に書かれたものです。そして、この書もとにした記念碑が、後に灯台官舎跡地に建てられました。この他にも、大下島灯台がロケに使われた映画には、平成30(2018)年1月公開の『嘘を愛する女』(長沢まさみ・高橋一生ら出演)がよく知られています。

 さて、灯台の取材を終えると、桟橋の近くにある早津佐神社を参拝。拝殿の天井梁には安政5(1858)年と明治32(1899)年に奉納された船模型を鑑賞することができました。

⑤早津佐神社の船模型

<早津佐神社の船模型>

これらも大下島灯台同様に、今治地方にとって貴重な海事文化遺産といえます。大下島灯台の場所には解説板はなく、あれば島の観光振興にもひと役買うことでしょう。

 

大成 経凡

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イベント名大下島灯台を探訪
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