レポート
2025.11.06

【灯台博士 大成さんによるコラム】第1回「海と船の甲子園」へゆく

月に1度、今治明徳短期大学地域連携センター長・大成経凡さんに寄稿していただく海にまつわるコラム。

今回は、「第1回「海と船の甲子園」へゆく」です。

高校生にとっての甲子園は、野球の舞台だけではありません。愛媛県内で高校生が活躍する〝〇〇甲子園〟といえば、松山市の俳句甲子園(第28回)や四国中央市の書道パフォーマンス甲子園(第18回)などが、地元の歴史文化や産業と結びついた大会として長く継承されています。

 そして今年、9月27日・28日の2日間にわたり、今治市内の複数の会場を舞台に第1回「海と船の甲子園」(今治市主催)が開催されました。本事業の目的は、海事産業への関心増大の機運醸成に向けて、海や船に関連したコンテンツを体験しながら、高校生以上を対象に「海事都市・今治」の歴史や現状を学び、次世代の海事人材確保につなげるというものです。〝日本最大の海事都市・今治〟だからできる海の祭典といえます。ちょうど28日は、市内の砂浜海岸「織田ヶ浜」を会場に「海上自転車競走(第11回)」が開催されることもあり、同イベントとの相乗効果が期待されました。なお、本事業は南海放送が業務委託を受けたこともあり、高校対抗早押しクイズ大会やゲスト出演(STU48の池田裕楽さん)など、後日30分番組にして放映する魅力も備えていました。

「海と船の甲子園」出場校は全部で8校あり、1校4人組での参加となります。FC今治高校里山校以外は工業系の高校で、県外は造船コースを有するところが招待されました。愛媛県内からは県立今治工業高校・松山工業高校・新居浜工業高校と私立FC今治高校里山校、県外からは香川県立多度津高校と高知県立須崎総合高校、山口県立下関工科高校と長崎県立長崎工業高校となります。筆者は、早押しクイズ大会の問題の監修を務めることとなりました。60問近い問題作成にたずさわりますが、海事情報に特化すると難問となり、易し過ぎてもいけないというジレンマに悩むこととなります。筆者が高校生の頃は、高校生ウルトラクイズというテレビ番組があり、〝ニューヨークへ行きたいか!〟の司会者のかけ声に、茶の間で心を踊らされたものです。そんなスリリングな大会を願いつつ、クイズの合間に高校生たちと海事産業施設などを巡ることとなりました。

27日午前中は、配電盤などの舶用機器メーカーで有名なBEMAC㈱本社・みらい工場で開会式を行い、工場見学をしながら同社が用意した「なぞときクイズ」に挑戦。また、同社が製造した航海シミュレーターで操船の技術も競いました。

[BEMAC(株)で航海シミュレーターに挑戦]

その2つが得点化され、早くも地元の今治工業とFC今治里山校が頭一つ抜け出します。つづく午後は、しまなみ海道の来島海峡大橋を渡り、大島(吉海地域)の山中造船㈱へ。同社は、エラ船型の意匠登録で知られる内航船のメーカーで、内航船の建造能力は日本一の実績を誇ります。同社では、鉄板を加熱と冷却とで曲げる鐃鉄(ぎょうてつ)の作業現場を視察した後、みんなでドライドックに降り立ちました。そこには、2日後に進水式を迎える貨物船が鎮座し、これから火ぶたを切る早押しクイズ大会には、この上ない決戦の舞台となりました。ドック内には〝ピンポン〟の音がこだまし、珍回答の続出で観客の笑い声も響き渡りました。出題が一段落したところで、徳永今治市長が特別ゲストで姿を現し、ボーナス問題2問を出題して会場を盛り上げてくれました。問題「今治市のゆるキャラ〝バリィさん〟のタオル腹巻に挟んである船は何をかたどったもの?」 正解は財布ですが、タイタニックという珍回答には筆者も腹を抱えて笑わせていただきました。

[山中造船のドライドックへ降り立つ]


[ドライドックでクイズ対決]

山中造船の後は、下田水(しただみ)港へ移動し、㈱しまなみの遊覧船に乗船。来島海峡を遊覧し、波止浜湾の造船所群を海上から観賞。建造中の鉄鋼船や艤装岸壁に係留された大型船の迫力に、高校生たちは圧倒されていました。

[波止浜湾で遊覧船から造船所視察]

海上遊覧は40分ほどで終え、再び来島海峡大橋を渡って波方公民館へ。そこでは、翌日の海上自転車競走に出場する関係者の歓迎レセプションが行われていて、そのステージでこの日2度目の早押しクイズが出題されました。難問に正解して感嘆の声があがる一方、珍回答で場内が盛り上がる場面も見られました。問題「今治藩主の御座船(ござぶね)の設計図面は板でできていますが、木の種類は?」  正解は杉ですが、須崎総合高校の〝かば焼き〟の珍回答には場内爆笑。一方、今治造船㈱が建造したメガコンテナ船の全長を訊く問題は、多度津高校が約400mの正解を即答し、会場からは拍手が沸き起こりました。この頃になると、参加校にもリラックスの表情がうかがえました。

2日目は、織田ヶ浜で海上自転車競走となります(織田ヶ浜は、ウンランなどの希少な海浜植物の保護区で知られる)。これは「日本最大の海事都市・今治」と「サイクリストの聖地・しまなみ海道」をミックスさせたようなイベントで、クイズ参加者以外にも多くの高校生が参加。

[海上自転車競争「スタート!」]


[漕ぎ終えてインタビュー]

クイズ参加校は、標準戦の部に出場し、チーム順位で得点を競いました。ここでは、知力よりも体力や乗り換え時のチームワークが求められ、女子だけのFC今治里山校が予選1位で決勝へ進んだのはサプライズでした。
最も遠方から参加の長崎工業高校も予選1位で決勝に駒を進めます。そして、決勝戦を前に最後のクイズが白砂のビーチで行われ、最終順位が決定しました。
ここでは、バラストやRORO船を訊ねる問題、今治市の船主の多くが外航船の船籍をおくパナマを訊く問題などを出題。重い鉄板やブロックを運ぶ機械のクレーンを訊きつつ、そのクレーンの単語の鳥の意味を訊ねたところ、珍回答が続出。正解はツルですが、ニワトリやダチョウが回答に飛び出し、場内は大いに盛りあがりました。

[織田ヶ浜で最後のクイズ対決]

結局、優勝は今治工業高校、2位はFC今治高校里山校、3位は多度津高校の結果となり、海上自転車競走でフロートが外れて転覆しながらも、大会を盛り上げた新居浜工業高校には審査員特別賞が授与されました。クイズ大会終了後、自転車競走の方は決勝戦が行われ、長崎工業高校が優勝。しかし、レースを終えるや、表彰式を辞退して長崎に帰るというあわただしさでした。それでも、いい想い出をつかんで帰路につく清々しい表情が印象的でした。

これぞ、青春! 来年もぜひ開催して欲しいものです。
第2回があるようでしたら、今年の教訓を生かし、クイズの出題に磨きをかけたいと思います。

 

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