レポート
2026.02.20

【灯台博士 大成さんによるコラム】~津島しらうお祭りへゆく~

 月に1度、今治明徳短期大学地域連携センター長・大成経凡さんに寄稿していただく海にまつわるコラム。

今回は、【津島しらうお祭りへゆく】です。

 令和8(2026)年2月1日の愛媛県民の関心といえば、やはり1万人余りが伊予路を駆け抜ける愛媛マラソンでしょう。当日、筆者はその松山市街の交通規制をかいくぐり、今治から宇和島まで自家用車で疾走しました(往路2時間半、復路3時間余り)。お目当ては、宇和島市津島町の岩松川河川敷で開催される第35回津島しらうおまつり(市・実行委員会主催)でした。[しらうお祭りイベント会場]

 地元で「しらうお」と呼ばれるその魚は、正確にはハゼ科のシロウオを指し、宍道湖(島根県)や霞ケ浦(茨城県)で獲れるシラウオとは異なります。シラウオが河川河口域や汽水湖で一生を過ごすのに対して、シロウオは一生の大部分を沿岸域で過ごし、産卵期のみ河川へ遡上する生態の違いがあります(外見は肛門の位置が違う)。寿命は1年で、繁殖期のみ河川へ遡上する遡河(そか)回遊魚なのです。

[たらいに入ったシロウオ]

 シロウオ漁が始まると、マスコミはこぞって〝早春の風物詩〟や〝春の訪れを告げる〟といった形容語を用います。岩松川では1月下旬から2月中旬までその光景が見られ、網にかかったシロウオは体長約3〜5cmで透明の色をしています。小さいようですが、それが成魚の大きさです。現在、同所でシロウオ漁を営むのは、松浦紀江さん・和也さん母子の1業者だけです。訊けば、現在は漁師を専業とはせず、ふだんは勤め人で、兼業漁師という形で伝統漁法を継承しています。そのため、漁期間中でも毎日の漁獲は行っていません。宇和島水産高校水産増殖研究部の報告によれば、愛媛県内では東予の大三島除川や西条市の加茂川・中山川、中予の重信川、南予の愛南町御荘湾や宇和島市の来村(くのむら)川・三浦地区などでもシロウオの生息が確認されていて、岩松川が巻き網漁であるのに対して、三浦地区と来村川は四つ手網漁と呼ばれる漁法が用いられてきたとのことです。

 春の訪れといいながらも、その時季は愛媛で暮らす人々にとっては極寒の時季であります。シロウオは産卵のため、満ち潮に乗って上流を目指し、岩松川では宇和島市津島支所近くの青いトラス橋(岩松新橋)の辺りは汽水域となっています。シラウオは汽水域上流付近の砂礫底に巣穴を掘って産卵し、メスは産卵後に亡くなります。一方、オスは巣内にとどまって、う化まで卵を保護した後に亡くなるという、はかない時間軸で生きる魚類なのです。昨年夏は猛暑による高水温などの影響で、愛媛のカキ養殖には甚大な被害がでました。シロウオはどうなのか松浦さんに訊ねると、〝今年は豊漁〟で岩松川の環境保全が影響しているのではとのことでした。筆者の今治地方の涸れ川とは違い、満潮ともなれば海水がある程度上流にさかのぼり、汽水域の範囲も広いように思います。砂利石も多く堆積し、産卵場に適しているように感じました。

 現在、「しらうお祭り」は産業まつりとの抱きお合わせで開催されており、トラス橋より川下の河川敷では松浦さん母子と一緒に網をしかけ、追い込み、引き揚げる漁の体験ができます(無料)。

[シロウオ漁体験]

[生け簀の木箱からザルに移す様子]

[収穫したシラウオを升で量る様子]

 来場者の多くは、トラス橋より川上の河川敷イベント会場でのグルメがお目当てです。そこでは、宇和島の鯛めしのルーツともされる津島町の郷土料理「六宝(ろっぽう)」が堪能できます。この六宝とは、漬けダレに6種類の材料(醤油・酒・みりん・砂糖・ごま・卵)を使うことから名付けられたとか。また、じゃこ天やヒオウギ貝なども販売され、特に松浦さん母子が獲ったシラウオの〝おどりぐい〟コーナーには長蛇の列が。〝おどりぐい〟というだけあって、口の中でシロウオがピチピチと跳ねるような食感を味わうことができます。三杯酢をひたしたカップには、シロウオと岩松川のアオサとがコラボしていました(筆者は、酢味とおどり食いが超苦手)。ちょうどそばに居合わせた宇和島水産高校相撲部の男子生徒らに、被写体になってもらいました(笑)。[踊り食いをする高校生]

 おどり食い1人前は300円の提供でしたが、シロウオは5〜6匹入っていたのでしょうか。漁期間中は1合1,500円で販売され、この日もシロウオ漁の体験場所には鮮魚店が陣取っていました。また、おどりぐいコーナーの店員が途中で駆け付け、あらかじめ川に浮かべた生け簀の木箱からシロウオを補充して搬送する光景も見られました。体験漁の参加者は船に乗り込み、網の引き揚げ、手繰り寄せ等を手伝いますが、宇和島水産高校の男子生徒2名がボランティアでサポート役に回っていました。その一人は、将来はJR四国が西条市で営むサーモン養殖場で働きたいという夢を語ってくれました。両名にとって、もちろんシロウオ漁は初めての体験で、かけがえのない経験値を積んでいるように感じました。

 岩松川は、カニも豊富に生息しているようで、この日一般公開された岩松の豪商・小西荘三郎の「小西本家離れ・蔵」では、地元小学生によるカニの絵画と岩松川のカニの生態についての展示会もありました。瀬戸内海のカニといえば、筆者はガザミ(ワタリガニ)くらいしか興味ありませんでしたが、希少なカニの解説文を見て、同じ愛媛にありながら風土の違いを痛感しました。ハマガニ・ベンケイガニ・アシハラガニ・クロベンケイガニ…と、初めて耳にするカニばかりでした。帰路、筆者は宇和島市内の道の駅で遅めのランチをいただきましたが、迷わず宇和島の鯛めしとじゃこ天を選び、お土産に岩松川のアオサで手造りしたつくだ煮を購入することにしました。

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