今月から、月に1度、今治明徳短期大学地域連携センター長・大成経凡さんに、
海にまつわるコラムを執筆していただきます。
第1回目は、「椀舟(わんぶね)のふるさとで〝宮島さん〟」です。
今治市桜井地区の志島ケ原(ししまがはら)といえば、瀬戸内を代表する白砂青松の海浜で、国の名勝にも指定されている。
この一角に、菅原道真を祭神とする綱敷天満神社(菅利之宮司)があり、由来は大宰府へ左遷となった道真が時化で同地区へ避難した際、
浜人が船具の綱を巻いて敷物とし、おもてなししたことによる。
その広大な境内の中には、世界遺産の安芸宮島・厳島神社の分社もおかれ、旧暦6月17日夕刻には地元住民から〝宮島さん〟として親しまれる祭礼行事がとり行われる。
今年は7月15日の開催となった。
(志島ヶ原にある厳島神社)
これはどういうお祭りかというと、夜9時頃から御霊を載せた神輿が漁船で沖を渡御し、海上安全・豊漁祈願をするのであるが、
それだけだと他の地域でもよく見かける神事である。
ここでは、それに先立つ〝わら舟奉納〟の行事がとてもユニークで、7歳までの男児がいる家庭が、
子の成長を願って規格サイズの麦わら舟を同社へ奉納するところから始まる(全長約1.0~1.5mで、帆に〝奉納 厳島神社〟の文字と鳥居などを描く)。
そして、お祓いを受けたものから順に父親が浜まで担ぎ、波打ち際から沖へ泳いで流すというのだ。
(お祓い(出航)前のわら舟)
(わら舟を浜まで担いで移動)
(日没前のわら舟流し)
8時頃には、わら舟にロウソクの灯りがともって幻想的な光景となり、船出を見送る住民からは感嘆の声があがる。
平成24年(2012)公開の長編アニメーション映画『ももへの手紙』(沖浦啓之監督)の中でも、その場面が映像で紹介されている。
(日没後のわら舟流し)
40年ほど前には200隻ほどが奉納され、地元の一大行事であったという。
しかし、近年は少子化の影響で30隻もなく、コロナ禍でこの2年は神事のみの祭典となっていた。
かつては、わら舟制作を商売にする人もいたが、今では頼める職人も少なくなり、自作には大きな労力がともなっている。
そこで、地域に賑わいを取り戻そうと桜井綱敷天満宮みこし保存会と社会福祉法人来島会とが連携し、制作経験者の指導を受けて20隻余りの奉納船をこしらえた。
本来なら船名は男児の名前となるが、今年は地元の学校名や団体名もエントリーされ、地元消防団の青年たちが泳ぎ手として行事を盛り上げることになった。
100mほど沖合には漁船の御座船が待機し、その辺りまで泳いで送り出すと、わら舟は風と潮にも乗ってしだいに燧灘(ひうちなだ)へと姿を消していった。
旧暦の開催にこだわるのは、満月の潮汐(大潮)に合わせたもので、宮島の本社へ流れつくことを願っているとされる。
例年だと、本社では同じ日の夕刻に日本三大船神事の一つ「管絃祭」が催されるが、今年は中止となった。
(明日に続きます。)
イベント名 | 宮島さん |