月に1度、今治明徳短期大学地域連携センター長・大成経凡さんに寄稿していただく海にまつわるコラム。
今回は、「高縄半島の最北端をゆく①」です。
愛媛県を代表する半島といえば、延長約40㎞の佐田岬半島を思い浮かべる人が多いことでしょう。一方、北予にある高縄(たかなわ)半島をご存知でしょうか? 今治市陸地部は、この半島にすっぽりと覆われています。筆者は、その高縄半島先端の旧越智郡波方(なみかた)町で少年時代を過ごしました。
高縄半島の範囲は、北条地域の高縄山(985m)を中心に半島の根元には松山市・東温市・西条市が広がります。この高縄山系で最も高い山が今治市・西条市・東温市の境界にもなっている東三方ヶ森(ひがしさんぽうがもり、1232m)で、ほかに明神ヶ森(1217m)・楢原山(1041m)・北三方ヶ森(977m)・笠松山(357m)・近見山(244)などがあります。半島の先端は来島海峡に面し、沖合に芸予諸島、東に燧灘(ひうちなだ)、西に斎灘(いつきなだ)が広がっています。
高縄半島の最北端は〝大角鼻(おおすみばな・おおすみのはな)〟と称され、ここに波方町が平成4(1992)年に整備した大角海浜公園があります。
[大角海浜公園 海水浴場(全景)]
筆者の記憶では、公園整備前に大角鼻に用があるとすれば、海水浴・半島四国(写し霊場)・史跡めぐり・釣りくらいでした。海岸道路が狭くて舗装も十分でなかったため、とても観光名所と呼べるようなものではありませんでした。そこを頻繁に訪ねていたのは、沿岸にタバコやダイコンの畑を有する専業農家くらいでした。筆者の実家も、わずかな山林を有していたのですが、瀬戸内海国立公園となっていたため開発ができず、無用の長物となっていました。しかし、平成3年に町道大角線が完成すると、拡幅工事で山林の一部が収用されて、筆者の大学入学金がそこから工面されたのです。母がとても喜んでいたのを覚えています。
公園整備後、波方町は〝なみかた海の祭典〟というイベントを開催し、児童対象のミニトライアスロン大会が開催されたこともありました。市町村合併後にそれらはなくなりましたが、平成11(1999)年のしまなみ海道開通後は、来島海峡大橋の全景(夜間ライトアップ)を眺める絶景ポイントとして人気を集め、釣り場や海水浴場として賑わっています。ツワブキ・ノジギクなどの群生も楽しめ、近年は河津桜の観賞スポットとしても注目されています。コロナ禍以降は、キャンプ場として人気の隠れ家的スポットにもなっています。筆者は今治明徳短期大学の拙授業「地域活性化論」で、魅力ある観光地・行楽地を知る目的でここを何度も訪れています。自由時間を与えると、学生たちは展望台よりも先端の岩礁に降り立ち、写真や動画の撮影に興じていました。
[高縄半島最北端の岩礁]
[岩礁で動画撮影に興じる留学生]
海の中に浮かんでいるような感覚に陥ったという感想を述べる学生もいたほどです。目の前には今治市域の関前諸島・大三島だけでなく、広島県呉市の大崎下島なども肉眼ではっきり確認することができます。
ここで、大角鼻にまつわる秘話をいくつか紹介したいと思います。一つは、海水浴場に広がる大量の白砂は、本来の大角鼻の砂ではないということです。高縄半島はおおむね花崗岩(かこうがん)の地質であるため、その風化した粒子の白砂を海水浴場ではよく見かけます。しかし、大角鼻先端から東西海岸約2㎞の砂浜は、花崗岩の中でも石英閃緑(せんりょく)岩と閃雲(せんうん)花崗岩が風化したもので、少し黒味を帯びているのです。筆者が小さい頃、父が持ちネタのように言っていたのが、かつて大角鼻では砂鉄を採っていたということです。そこで30歳の頃に『四国鉱山誌』(四国通商産業局/1957)を調べたところ、確かにそこは〝金生鉱山〟の名称で昭和25(1950)年1月に鉱種名・砂鉄として鉱区の設定がなされていました。
[砂鉄の漂砂鉱]
粗鉱の品位は磁鉄鉱よりもチタン鉄鉱が多かったようです。採取そのものは昭和13~20(1938~1945)年に実績があり、月15~20t程度(総数650t)を海軍に納め、当時は表面の良い部分のみを採取してねこ(ねこだ)流しにより選鉱していたようです(漂砂鉱)。昭和23~26年頃まで月10t程度を出鉱し、波方(はがた)村の波方地区にテーブル選考場を設けていましたが、同27年の台風で倒壊。粗鉱品位の低下もあって、そのまま休山にいたったようです(昭和35年の町制施行で〝なみかた〟に改称)。
[かつて砂鉄を採取した大角海岸]
今でも、海水浴場以外の大角海岸では黒砂を見かけます。知らなければ気づかずに通り過ぎてしまうところですが、地質に関心を持って散策すると大角海浜公園の楽しみが一つ増えることでしょう。10月19日(土曜)13:00から、その大角海浜公園で「太陽石油presents GO-MIX!」があり、南海放送ホームページか南海放送アプリで参加者募集中です。9月13日より募集開始で、定員100名になりしだい締め切りとさせていただきます。多くの方のご参加をお待ちいたしております。
【②につづく】
イベント名 | 高縄半島の最北端をゆく① |