東予港オレンジフェリーへゆく

2024-4-9
海と日本PROJECT in えひめ

月に1度、今治明徳短期大学地域連携センター長・大成経凡さんに寄稿していただく海にまつわるコラム。

今回は、「東予港オレンジフェリーへゆく」です。

 

近年は、愛媛県内の高校でも、弾力的なカリキュラムを使って探究型の授業を積極的に取り入れています。筆者が勤務する今治明徳短期大学でも、拙授業の「地域活性化論」や「地域交流演習」の中で、学生たちと一緒に地域へ出向き、地場産業の視察や名所の観光を行っているところです。そんな中、昨年12月には念願であったオレンジフェリーの視察がかないました。オレンジフェリーといえば、アニメ映画『すずめの戸締り』で主人公のすずめが九州から四国へ移動する際の交通手段として描かれていました。愛媛県内では、八幡浜港・東予港・新居浜港の3港でその雄姿を見ることができます。私どもが訪ねたのは西条市今在家の東予港で、同港と大阪南港とを連絡する2隻の大型フェリーがそれぞれ毎日1往復運航しています。東予港で夜に乗船すると、眠っている間に早朝には大阪南港へ着き、そこからUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に向かう旅客や関西国際空港へ向かう旅客らに利便性があるようです。逆に、USJで一日中遊んだ後、夜に大阪南港で乗船すれば、翌朝には東予港へ帰ってくることができるのです(自家用車は東予港に駐車可能)。筆者は京都・大阪の3泊4日(船中2泊)の家族旅行で、就航したばかりの新しいオレンジフェリーに乗船し、その良さを実感することができました。

 学外授業でオレンジフェリーを視察したのには、いくつかの理由あります。一番の理由は、平成30(2018)年に就航した「おれんじ えひめ」(14,749総トン、全長199.9m、旅客定員500名)・「おれんじ おおさか」(14,759総トン、全長199.9m、旅客定員500名)の両船が、それまでの旅客船の常識をくつがえす設備を有していたからです。

「おれんじえひめ」と記念撮影

[「おれんじえひめ」と記念撮影]

東予港寄港中の「おれんじおおさか」

[東予港寄港中の「おれんじおおさか」]

そのことはマスコミを通じて大々的に報道されましたが、〝百聞は一見に如かず〟です。学生たちには、いつもとは違った視点からの観察をうながしました。キャッチコピーで〝動く海上ホテル〟と謳うように、フロント・エントランスはとても豪華きらびやかで、一流ホテルそのものです。

エントランス

[エントランス]

しかも、全室個室で、グレードも様々でした。

個室

[個室]

もはや雑魚寝の2等客室は存在せず、他の客の顔色をうかがうことなく、女性や子供は安心して船旅を楽しむことができるのです。

グレードの高い客室

[グレードの高い客室]

サイクリストがロードバイクを輪行袋に収納せず、そのまま部屋へ持ち込むことも可能となっています。客室は、職員の案内ですべてのグレードの部屋を見学し、スイートルームではしゃぐ留学生たち(中国・ネパール・スリランカなど)の姿が印象的でした。

客室通路

[客室通路]

特に、ネパール人は母国に海がなく、こうした大きな客船に乗ることじたいが初めての体験でした。

 

 もう一つの理由は、筆者が授業のキャッチコピーに掲げる〝今治が学びのフィールド〟の実践です。そう記すと、「あれ?オレンジフェリーの所有は西条市の会社じゃないの?」と指摘されそうですが、本船は確かに四国開発フェリーの船でありますが、同社は今治市に本社を有する瀬野汽船のグループ会社であるのです。今治市は〝日本最大の海事都市〟を標榜していますが、造船業だけでなく海運業や舶用機工業も盛んです。今治オーナーとも称される船主がたくさんいて、1社で100隻以上の外航船を有する海運会社が数社あるのです(正栄汽船・日鮮海運・洞雲汽船など)。筆者の実家も、かつて今治市波方町で内航海運業を営んでいましたが、親戚の中には今でも内航船を所有し、船舶貸渡業や船員管理などに従事している家があります。瀬野汽船の瀬野家も波方発祥の老舗海運会社で、筆者も瀬野洋一郎会長とは面識があり、同郷のよしみで食事誘っていただいたこともあります。本学がフェリーの見学を申し入れて受け入れてもらえるかどうかは不安な点もありましたが、もしも断られたら、最後は瀬野会長に直訴するしかないとの覚悟でのぞんだしだいです(笑)。さらに、オレンジフェリーの長谷部船長は筆者の中学校の同級生というから驚きました。

 

なお、視察当日はブリッヂ(操舵室)にも立ち入ることができ、機器類にBEMACの名盤があることに敏感に反応した学生もいました。その視察に先立つ2か月前、今治市野間にあるBEMAC本社・みらい工場も訪ねていたのです。昨年6月には今治造船の今治工場(今治市小浦)も学外授業で見学した経緯があり、本船は今治造船グループの「あいえす造船」(今治市吉海町本庄)で建造されています。学生たちは海事都市・今治の裾野の広がりを知り、今回の視察の意味を感じ取ってくれたことでしょう。ちなみに、屋上デッキも見学しましたが、煙突のファンネルマークはSのアルファベットを3つ重ねたものと説明を受けました。それは何かと訊かれ、筆者は真っ先にオーナーの苗字・瀬野のSかと連想しましたが、正解は「スピーディ」「セイフティ」「サービス」でした。

屋上デッキ(Sのファンネルマーク)

[屋上デッキ(Sのファンネルマーク)]

当日の天気はあいにくの曇天で、見学を終えると雨が降り始めましたが、四国山地の稜線の中に石鎚山を遠望することもできました。

 

 3つめの理由は、車輌甲板を見学させていただくことを要望した点にあります。フェリーの稼ぎ頭は、あくまで車輌の搬送で、本船はトラック180台を積載可能です。

待機するトラック車輌

[待機するトラック車輌]

ホテルの要素ばかりに目が行きがちですが、船尾には開閉式の乗車専用口があって、右舷にはRORO船のようなランプウェイ(傾斜路)も見られ、3層の車輌甲板とつながっています。

車輌甲板への出入口

[車輌甲板への出入口]

車輌甲板

[車輌甲板]

そこへ大型トラックやトレーラーも積載するというので、まさに航空母艦のような印象を抱きました。働き改革や地球温暖化が叫ばれる中、長距離トラックのドライバーが夜間休息もでき、さらにトラックよりもCO₂排出量の少ない大型旅客船は、利にかなった貨物輸送手段と考えられるのです。本四架橋ルートが3つ開通し、高速道路が普及したことで本四連絡航路の多くが廃業に追い込まれました。それでも、こうして瀬戸内海航路で大型旅客船が残っているのには訳があり、存続させなければいけない理由があるのです。ならば、そうした時代のニーズに合わせて旅客船も進化させていかなければなりません。筆者の故郷の波方には、かつて広島県竹原市と連絡する「中四国フェリー」がありました。中国・四国を連絡する最短航路のキャッチコピーで、人気の航路でした。しまなみ海道の開通(1999年)で利用が減って収益が悪化し、平成21(2009)年3月末で廃業となりました。

 

日本は島国で、船と船員はなくてならない存在です。海や船への関心を失わないような取り組みが、もっと求められているように思います。今回の授業で学生たちは何を感じたのでしょう。特別に授業を受け入れて下さった四国開発フェリーのスタッフの皆様には、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

 東予港から本学への帰路、西条市東予郷土館に立ち寄りました。お目当ては、生きたカブトガニの観賞です。

カブトガニの標本(西条市東予郷土館)

[カブトガニの標本(西条市東予郷土館)]

カブトガニの飼育槽(西条市東予郷土館)

[カブトガニの飼育槽(西条市東予郷土館)]

同市河原津の干潟は、カブトガニの繁殖地となっています。かつては瀬戸内海の干潟のいたるところで目にしたこの生き物も、今では希少生物となっています。海の生態系や環境保全を考える際、もっと知って欲しい生き物であります。

 

イベント名東予港オレンジフェリーへゆく
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